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2012年6月18日月曜日

窓辺のサボテンの花は。

エッセイ 第11話

『おじさん、あれ貰ってもいいの?』
『大事にしてくれればね。』
私は、その小さな鉢に植えられたサボテンを
一つだけ大事に持って帰りました。


今は、寂れた商店街にその写真屋さんは有りました。

淡いミントブルーに塗られ、開店当時は洒落たお店で
あったであろう小さな二階建で、ご夫婦で営業されて
おりました。

D・P・E(現像・密着プリント・引伸しプリント)業務や
学校の記念行事写真、会社等の行事や慰安旅行での写真、
はたまた証明写真などなど、昔は大変忙しい業種でした。

おじさんの趣味は、サボテン栽培。ガラスウィンドウには、
カメラの他に、町内会の盆踊り・お祭り写真などと一緒に、
その小さなサボテン達も賑わいに加わっておりました。

小学生の時から、学校で暗室作業をしていた私は、自宅
でも自分好みに現像したくて、その為の薬品をよく買いに
店に行きました。

店に頼めば良いのに、何で自分でしたがるのか、不思議に
思うおじさんでしたが、私のマニアックな注文にも、色々
調べて対応してくれました。

高校の頃には、店の並びにある高校に通ってはいましたが、
ディスカウントカメラ店の先駆けである、大塚三丁目の
「キクヤカメラ」の特価品ばっかり買いに行って、段々と
疎遠になって行きました。

(キクヤカメラは、のちに池袋まで進出しましたが、駅から
遠く新興勢力店に客が流れ、なくなってしまいました。でも、
最後まで穴場なお店として、常連は通いました。)

「アジサイ家族」
FinePix S1Pro Nikkor 24mm f2.8 f11.3 s1/64
(クリックで拡大、1200×800)

(フォト:1)アジサイの季節。皆揃って咲く姿は、家族のようにも
見えます。また、その色の数だけ性格が有るようにも見えて来ますね。



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再びお店に行くようになったのは、社会人になってからです。
カラープリントが激安競争で薄利多売になり、街から写真屋
さんが無くなり始めた頃の事でした。

1円プリントが普通になりましたが、好みの色が出ないのと、
高くても純正ペーパーを使い、35mmの画面比率に近い横長
サービスプリントを扱っているこの店に戻って来たのです。

おじさんは、スッカリお年を召していつも二階で病気療養して
いるようで、奥さんのお世話無しには何も出来ないそうです。
お店の方は、もっぱら息子さんが対応しておりました。

聞くと息子さんは、私より3つ年上で、中・高・大学の先輩に
あたるそうです。
3つ年上なので、学校で顔を合わす事も有りませんでしたが、
共通の話題も話せるので、いつも長話をしてから帰ります。

帰り際にお店を振り向くと、二階の窓辺には、あの小さな
サボテンの鉢が綺麗に並んでいるのが見えました。

おじさんは、サボテンの世話だけはしているようでした。


「アジサイ親子」
FinePix S1Pro Nikkor 24mm f2.8 f11 s1/64
(クリックで拡大、1200×800)

(フォト:2)見事な額を広げて、見得を切っているのは、
お父さんでしょうか?でも最近は、お母さんかも知れませんね。



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数ヶ月後のこと、一日に10組くらいしか来店のないその店の
もはや常連となった私は、頼んでおいたプリントを取りに伺い
ました。

そこで待っていたのは、奥さんに支えられ何とか座っていた、
あのおじさんだったのです。

今日は、息子さんが急用で留守なので、本当に久しぶりに今日
だけ店番をしているそうです。

私は、あの小さな時の記憶が色々と蘇り、ご夫婦に大変お世話に
なり現在も何とか写真を撮って食べている事をご報告致しました。

自分の店に通っていたお客さんの子供から、そんな人が居たなんて
この仕事をやっていて本当に良かったと喜んで貰えました。

私は、「いつも窓辺のサボテンを見ていますよ。」と言い、また
笑いを誘いました。

一頻り昔話の花を咲かせた後、私は丁寧にご夫婦にお礼を言って
店をあとにしました。


「アジサイ夫婦」
FinePix S1Pro Nikkor 24mm f2.8 f5.7 s1/128
(クリックで拡大、1200×800)

(フォト:3)お年を召した御夫婦が、お洒落をしてお出かけ??
そんな微笑ましさがありますね。なかなかお似合いですよ。



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多忙だった私は、また店を訪れたのは数ヶ月後の事でした。
でもおじさんは、もうこの世の人ではありませんでした。

奥さんも、その後疲れから寝込み、今は息子さんが介護をしている
そうです。その頃から、息子さんと近所の酒屋でも頻繁に会う事が
多くなりました。

私も母を介護していた時もそうですが、無限に続く介護生活の時間は、
どこかで飲酒などで区切りをつけないと本当に辛いです。

買い求められる酒が、段々と大型のペットボトルの焼酎になり、その
辛さが自分の事のように思い出されます。

いつか近所の飲み屋でもと思ってはいましたが、そのチャンスが無い
ままお母さんも他界されました。

その頃には、お店もいつも半分閉まったままの営業状態でした。

両親を看取った息子さんとは、もはや話をする為に訪れる関係です。

私が、ご両親にお礼を言う事が出来た話をすると、たいそう喜んで
貰えました。

お酒が過ぎるのでお互い注意しましょうと笑って別れた後、数日して
お店が閉まっている事が多くなりました。

ある日、数少ない常連さんの一人である我が家の裏の奥様が、私を
訪ねて来ました。

話によると、深酒をした写真屋さんが、就寝中の嘔吐が原因で亡く
なったそうです。

その後訪れたお店は、どなたもいらっしゃらなくて、お話しは聞けず
じまいです。

そして二階の窓辺には、あのサボテンの花が夕日を浴びているだけ
でした。


「アジサイ娘」
FinePix S1Pro Nikkor 24mm f2.8 f7.8 s1/59
(クリックで拡大、1200×800)

(フォト:4)今日は、清楚にキメましたね。後方は妹さん
でしょうか?カラフルなアジサイの中では、かえって白が
引き立ちますね。そんなアジサイ姉妹でした。


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あれからだいぶ年数が経ちました。写真屋さんは、直ぐに取り壊され、
もうあのサボテンも見ることが出来ません。

その後の写真業界も、ご多分に漏れず大変な不況です。
でも私は、もう少し頑張って見ようかと思っています。

私には、色々な恩人がいらっしゃいますので。。。









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追記。


我が家には、甘い実をつける樹齢50年超えの枇杷の木が有ります。

近所で評判の為、隣近所くらいはお配りしておりましたが、母の他界後は、
参列して頂いた御家庭に、毎年お届けにお伺いしておりました。

年に一度だけの事ですが、皆さん亡き母の思い出話をして頂けるので、
良い追善供養になりました。

でも段々とその数が増え、30軒近くなった昨年、震災が有りました。

一つの機会と思い、また私も老体の身でいつまでも木登りしている訳
にもいかず、実の青いうちに落とし、長い枇杷配りが終了しました。

そして今年、もう配らない代わりに御自由に持ち帰って貰おうかと
考えてはみましたが、毎晩来るハクビシン部隊、毎朝来るカラス軍、
日中来るメジロなどの野鳥の衆などを追っているうちに、先ほど腕に
擦り傷を負いました。

その時フト思ったのは、いったい私は何と戦っているのかと。。。

ご自由に持ち帰って頂いても、マナーの無い人が殆どをまとめて持って
行きます。それより鳥達に持って行って貰うのが、枇杷本来の願いで
はと。。。

広い地に子孫を増やす為に甘い果実を実らせている筈だと。

害獣・害鳥が増えるのは困りますが、枇杷にも枇杷の生き方があります。

老木になって来て思うことは、お互い天寿の有る身。最後は天命の為に
生きるのも悪くないと考えるようになりました。

枇杷には枇杷の、サボテンにはサボテンの。

さて、私の天命とは。。。











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