エッセイ 第13話
(お詫び。昨秋に撮影して今頃の公開です。お待たせしてスミマセン。)
『どうだ、今日も行かないか。』
今日も先生の誘いを有難くお受けする私でした。
☆
当時ではまだ珍しいブレザーとネクタイの制服、知らない人が見れば
サラリーマンかと見間違える姿でした。
決して先生と生徒には見えない二人連れです。
担任クラスを持たない新任の先生で、週一の授業で教えられる間柄で
したが、時々書かされる感想文のノート提出には、色々思うことを
書きました。
そんな私に或る日授業が終わった後、先生から話しかけて来ました。
連れて行かれたのは、職員室ではなく学園の運営理事室でした。
一人でその部屋を使っているらしい先生は、気さくに話を続けました。
『遠慮するなよ、ここは誰も来ないから。』
初めて座る本皮のソファーに居心地悪く座る私は、何でここに連れて
来られたのか分かりませんでした。
インスタントでない本格的な珈琲を出して頂いた後、先生は本題を切り
出しました。
「菊花展」
(クリックで拡大、1,280サイズ。)
FinePix S1Pro Tokina AT-X 100mm f2.8 s1/279
(フォト:1)毎年この菊花展におじゃましております。
手塩にかけた花を見ていると、人を育てると同じくらい
大変だなと思います。さて私はこんな素直に育ったかな??
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『いつも、きみの感想文を楽しみにして読んでいるよ。』
私は、意外な言葉に驚き何も言えませんでした。
またその後のお言葉にも、またまた驚かされました。
『もっと社会勉強して知力を高めたほうが良いよ。私が教えるよ。』
そして、その日から突然に私の社会勉強が始まりました。
放課後に学校から二人で出るのはまずいので、駅近くの並木道の歩道で
待ち合わせをしてから出かけるのは大体が銀座で、大人の社会を色々
体験させて頂きました。
ブレザーの制服は、どこに入るのも咎められる事もなく、飲食も普段は
食べられないものや、まだ飲んではイケナイものまで頂きました。
こんな私に何でここまでしてくれるのか、さっぱり分からないまま
学園生活は続き、時々自習をサボって学園理事室で昼寝などをさせて
貰ったりしながら、その関係は卒業まで続きました。
「秋の陽は短くて」
(クリックで拡大、1,280サイズ。)
FinePix S1Pro Tokina AT-X 100mm f2.8 s1/609
(フォト:2)人の一生も、終盤に入るとあっという間に過ぎて行きます。
私は、何を育てて来れたかなと思い返すと、それはほんの僅かなものだけ。
それで往生際悪く、こんなブログエッセイを書いて紛らわせているわけです。
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映画もよく行き、特にオールナイトで見せて頂いた、五味川純平氏原作、
小林正樹氏監督の「人間の條件」全6部作ぶっ通し上映には、時間を
忘れて感動致しました。
でも私が最も感激したのは、「銀巴里」のライブステージでした。
「クリーム」や「ブラインド・フェイス」、「ディープ・パープル」や
はたまた「ピンク・フロイド」、「ウェザー・リポート」あたりを
聞いていた私には、異次元体験です。
でも、「ジャニス・ジョプリン」などのボーカル系も好きだったので
スンナリハマりました。
それは、「長谷川きよし」や「浅川マキ」などに溺れるキッカケにも
なりました。
銀巴里は、今や伝説となってしまいましたが、ティーンエージャーの
多感な頃に体験できて幸せだと思います。
「陽の沈まぬうちに」
(クリックで拡大、1,280サイズ。)
FinePix S1Pro Tokina AT-X 100mm f2.8 s1/279
(フォト:3)いつお迎えが来てもいいようにと考える自分と、
まだまだかじり付いても醜態を晒そうとする自分が同居する
毎日です。写真にもそんな感じが出てないと良いのですが。。。
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お返しに私が案内したのは、「パゾリーニ」「ルキノ・ビスコンティ」
「フランソワ・トリュフォー」「フェリーニ」「キューブリック」の
監督作品や、アート・シアター・ギルドの映画でした。
そんな学生生活も卒業と共に終わりを迎え、進学でまた別の生活が
始まりました。
卒業後も直ぐに先生を学園に訪ねて見ました。気張って三つ揃えで
行った私を笑いもせずに迎えてくれて、我が子を見るように、
『知力も高くなったな。』などと、お世辞を言ってくれました。
しかし暫くしてまた先生を訪ねると、学園の受付で退職されましたと
言われ、それ以降は年賀状も届きませんでした。
「鳥に託して」
(クリックで拡大、1,280サイズ。)
FinePix S1Pro Tokina 20-35mm f6.9 s1/256
(フォト:4)鳥達に次の命の素を託すために、そのルビーのような
魅惑の宝石を輝かせます。珠玉の逸品なのでしょうか?
それとも数撃ちゃ当たるの打算の一品か?これを見ていると
人間が一番弱い生き物なのかも知れないと思ってしまいます。
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あれから数十年、これを書くために当時の学園関係者に先生の消息を
訪ねて回りました。
しかし、その後の事を知っている人は殆どおりません。また先生ほどの
人が何でこんな学園に来たのさえ不思議がる人ばかりです。
そして何で急にお辞めになったかも誰も知りません。
私は、そんな先生のことを最近、「私の又三郎」さんと呼んでおります。
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