エッセイ 第7話
『あのヘソ曲がりは、絶対にうちの母親だな。。。』
私は、標高2000mの峠で呟きました。
☆
私は、40代前半で母親の介護生活に入りました。
まだ早い感じがしますが、末っ子の私ですからお年頃です。
40前後で子供を産むと、こんな年齢関係になります。
早く産んだ子供では、老老介護になりかねませんので、体力的にはこの方が良い
ですが、働き盛りの時なので仕事との両立は無理だと思います。
私は仕事を辞める事にしました。再度同レベルの社会復帰は難しいでしょうが。。。
親としても子にしても時を選べない宿命です。
本当は、姉に介護して貰いたかった母ですが、やはり働き盛りで私より責任が
重い仕事で多忙な姉には、選択の余地はありません。
余命の見えた介護でしたが、病院での付き添い・その後の自宅介護と家事など、
やはり心身ともに重労働でした。
やがて私は「介護うつ」になりました。
「初秋の冷風」
FinePix S1Pro Tokina100mm f3.9 s1/362
(クリックで拡大、1200×800)
(フォト:1)日々寒くなり、木々を抜ける風も冷たく感じますね。
今はまだ緑の葉も、直ぐに色付いて来そうな寒さです。
来週には黄金色になるのでしょうか。これからが私の好きな季節です。
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着いて来て、先々の事を考えられるようになったのは初秋の頃でした。
そんな自分の慰労?も兼ね、社会復帰行事として取材旅行先に選んだのは、
行き慣れた欧州アルプスの晩秋でした。
それは、浦島太郎状態で社会との関わりを無くした私にとって、今後の人生・
仕事を考える旅でもありました。
過去、欧州に春・冬・夏と取材に行って思ったのは、晩秋がこの時の私には
一番似あっているという事です。人生の落日に向き合った後でしたから。。。
「実りの彩、トキワサンザシ(ピラカンサ or ピラカンサス)」
FinePix S1Pro Tokina100mm f3.0 s1/362
(クリックで拡大、1200×800)
(フォト:2)人は、食べられない(青酸毒)ですが、その彩りには誘われます。
フィルムでは白飛びしそうな露出ですが、このデジタルは踏ん張ってますね。
背景の濃緑も深い色合いですが、これはレンズの描写が濃厚なせいです。
古いレンズですが良い玉に出会えました。
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空港で車を借りた私は、一路行き慣れたアルプスの峠道へと向かいました。
この年は、例年より初雪が遅く、まだ一回しか降雪がないとの事でした。
それでも早くしないとアルプスの峠道は、皆直ぐに通行止めになってしまいます。
車窓から見える薄く初雪が積もった山々は、麓には緑が残っていますが、中腹は
スッカリ紅葉していて三色の彩りを見せていました。
もう観光客には、殆ど会う事も無く、スキーシーズンまでの間の閑散期は、誠に
ドライブ日和です。でも観光登山鉄道も終了間近、宿探しも大変です。
「輪そして和」
FinePix S1Pro Tokina100mm f2.8 s1/256
(クリックで拡大、1200×800)
(フォト:3)緑・黄・紅・青、彩り多彩な秋色です。
踊る輪達がやがて和になる、素敵なハーモニーでした。
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峠に向かいました。
2000m級のこの峠には、残雪こそ無いものの凍てつく空気が攻撃的です。
森林限界近くのこの場所は、雲が手に届きそうに見える撮影ポイントです。
針葉樹の林にはまだ朝靄が残り、白い煮こごりのようなお姿をしていて、
空には白い綿雲が低く広がり、その峠でせめぎ合っていました。
そのうちに雲間から白い腕のような雲が林に向かって滴り落ちて来ました。
それに応じるように林の靄達が吸い寄せられるように集まって盛り上がって
来ます。
それはやがて昇竜のように天に向かって太くそびえ立って行きました。
天に昇った龍は、雲間の腕に摑まれ滝の逆流のように靄達をどんどん雲に
取り込んで行くのでした。
なるほど雲と靄とは兄弟なのだなと納得の競演です。まもなく靄達は、他の
綿雲達と共にユックリと流れて行きます。その姿は合流した羊の大群の
ようです。
そんな中、それより低層を真逆に流れる雲が行きます。朝日を浴びて紅く
染まるその雲は、唯我独尊と言わんばかりです。
その姿は、死んだ母親そのもののような気がしました。
『なんだ、人は死んだら雲に成るのか。。。』
何の根拠の無いその思い付きの自分の言葉に、妙に納得した瞬間でした。
先程の昇竜のように、人の魂は天に招かれ、召されて行くのかも知れません。
そう思うと何か死を迎える事が辛い事に思えなくなりました。
空を流れる綿雲が皆亡き人の集いにも見え、とても清々しい気分です。
千の風も良いですが、空を巡る雲も良いなと思いました。新たな悟りです。
ところであなたは、どんな雲になりたいですか。。。
「午後の仙人」
FinePix S1Pro Tokina100mm f5.7 s1/362
(クリックで拡大、1200×800)
(フォト:4)植物園の仙人さまは、いつもココにおいでになります。
兄弟の黒猫で、相方はいつもこのテーブルの下にいます。
そのお姿があまりに素敵なので、ウチのトレードマークにさせて頂き
ました。普段は愛想のいい仙人ですが、時々野生の顔を見せます。
そんな顔がなんか、凛!!としてますよね。
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撮影記:
三週間のあいだアルプスをさ迷った私は、湖畔のホテルに帰国まで二週間
滞在しました。宿探しにも疲れたからです。
フランスから働きに来ていたホテルの若い女性や、街のレストランの台湾の
若者など馴染みも出来て、再出発の心の整理がつきました。
あれから欧州には行く機会が無くアジアばかり行っていますが、またあの
峠に行き、天界と人界の狭間の駆け引きを見たく思っています。
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